.
ガチャガチャ、バタン、どたどたどた。
聞こえてきた音に、彼が帰ってきたのを知る。
今日はひどく乱暴だと思いながらリビングから玄関へ続くドアを開けた。
「おかえ???っ、ってぇ!」
おかえり、の言葉を言わせて貰うことも出来ず、彼のタックルを受けてそのまま床に転がった。
もちろん、俺が彼を受け止める格好なので、背中を盛大に打った。ついでに頭も。
「どうしたの」
痛みをこらえながら、肩に埋まる彼の髪を混ぜる。さらさらとした感触と、冷たさ。冷えた空気の匂い。
首に不恰好に回った腕に力が籠もる。
???うん、わかってる。
背中に回した腕で細い体を抱きしめる。彼の全体重が乗っかってるからキツイけど、でも。
「???わかってるけど」
でも、やっぱり。
小さく呟かれた言葉に返すように、腕の力を強める。
「???ちゃんと、此処に居るのにね、僕の気持ちはぜんぜんいう事聞かなくて。きみのせいじゃないって、わかってるけど」
「???うん」
お互いに、言えないことも言っちゃいけないこともたくさんあるのはわかってて。
気持ちのコントロールをするのも仕事のうちだってわかってるけど。
本当は、こんなのはこの仕事をしていたら、持ってはいけない気持ちなのかもしれないけれど。
それでも譲りたくないものが、俺と君との間には確かにあるんだ。
「???こんなの、役者失格かなぁ???」
小さく呟かれた言葉。
君がこんな風に気持ちを隠さずぶつけてくれたから。
本当は、隠していたい気持ちだろうことも、出してはいけない気持ちだという事も、俺も君も痛いくらいわかっているけど。
「ごめん、重いね」
何も言わない俺のことを如何取ったのか、俺の上から彼は身を起こす。手を伸ばして顔を隠す髪をかきあげれば、少し潤んだ瞳を隠すように視線が逸らされた。
まだ冷たい頬に両手を伸ばして引き寄せると、彼は素直に従う。触れるだけのキスをすると、ようやく彼の視線が俺のものとぴったりぶつかる。
俺の前では、何よりも雄弁に気持ちを語る、瞳。
目尻を指で撫ぜれば、少しだけ涼やかな印象を残す瞳が細まった
「じゃあ、俺も失格だよ。でも、それで良いよ。俺たちが一緒に居た時間は、ちゃんと此処にあるから」
俺の言葉に二度瞬いて、彼がようやく微かに笑った。
誰に何を言われても、良いんだ。
俺と君の間に、他の何者にも譲れないものがあるなら。
それで、良いんだ。
.